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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1981号 判決

原告

松村龍雄

ほか一名

被告

川本保子

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告らに対し、それぞれ金六九七万七四三四円及びこれに対する平成元年三月二日から右各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告らに対し、各自それぞれ金四〇三四万六五三七円及び各内金三九三四万六五三七円に対する平成元年三月二日から右各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、友人が運転する自動車に同乗中に、対向車との正面衝突事故により死亡した同乗者の両親が、右運転者たる友人に対しては、民法七〇九条に基づき、その母親に対しては、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事件である。

一  (争いのない事実)

1  原告らは、亡松村行良(以下「「亡行良」という。)の父母である。

2  被告川本悟(以下「被告悟」という。)は、平成元年二月一九日午後九時三〇分ころ、神戸市灘区六甲山町中一里山一番地先路上において、被告川本保子が保有し、自己のために運行の用に供する普通乗用自動車(以下「加害車」という。)を運転し、別紙図面記載のとおり走行中、当時加害車が進行する道路は凍結していて滑りやすくなつていたのであるから、被告悟としては、かかる道路状況を早期に把握し、直ちに減速して最徐行し、進路の安全を確認して進行すべき注意義務があつたのに、被告悟はこれを怠り、漫然と加害車を進行させて同車を対向車線に進入させた過失により、折から対向車線を進行してきた本田隆博の運転する普通乗用自動車前部に加害車左側部を衝突させた(以下「本件事故」という。)

3  本件事故により、加害車の後部左座席に同乗していた亡行良は、脳挫傷、左耳出血、右鼻出血、左前頭部挫創、腹腔内出血、腎損傷、肝損傷の傷害を負い、同日、神戸市立中央市民病院へ搬入され、以後同病院において入院治療を受けたが、平成元年三月二日午後二時一三分、同病院において、脳挫傷により死亡した。

二  (争点)

被告は、損害額を争うほか、亡行良は好意同乗者であるから、その損害賠償額から相応の減額がなされるべきであると主張する。

なお、亡行良の逸失利益に関する双方の主張は、次のとおりである。

(原告ら)

亡行良は、昭和六三年三月に高校を卒業して、直ちに光証券株式会社(以下「光証券」という。)に入社し、本件事故当時満一九歳の男子であつたところ、光証券では、一年の昇給率は〇・〇七であり、賞与は夏期六・四か月分、冬期六・四か月分が支給されるから、これを基礎に一九歳から六〇歳までの右昇給率を別表記載のとおり計算し、合計すると、給与・ボーナスの合計額は金七億〇九六七万八七六七円となり、これに定年後の六一歳から六七歳までの昭和六二年度賃金センサスによる所得額合計金二六三九万五九〇〇円を加算すると、金七億三六〇七万四六六七円となる。これを基礎に、生活費控除五〇パーセント、就労可能年数四八年、利率年五分として亡行良の逸失利益を算出すると、別記記載のとおり金一億〇八二四万六二七五円となる。

(被告ら)

亡行良が光証券から支給を受けた昭和六三年度分の給与・賞与の総額は金一四七万三七〇二円(ただし、昭和六三年四月から同年一二月までの九か月分)であるから、その一か月平均額である金一六万三七四五円が基礎とされるべきであり、光証券のような小規模証券会社において、将来、原告らが主張するような給与・賞与が支給されるとは到底考えられないし、将来の昇給は、公務員・大企業労働者等のように給与規定・昇給基準が確立されている場合にのみ考慮されるべきであり、本件では認められない。

第三争点に対する判断

一  亡行良の損害〔請求額金一億二八三九万六二七五円〕

1  逸失利益 金四一一四万六一九一円

亡行良は、昭和四四年一二月一五日生まれの男子で、死亡当時満一九歳であつたこと、亡行良は、昭和六三年三月に高校を卒業し、同年四月から神戸市にある光証券株式会社に勤め、同社営業課員として稼働し、同会社から亡行良に支払われた昭和六三年度分(ただし、同年四月から一二月まで)の給与・賞与の総額は合計金一四七万三七〇二円であり、一か月平均約金一六万三七四四円の収入を得ていたこと、以上の事実が認められる(甲三、八の二、原告松村龍雄)。

ところで、死者の逸失利益の算定は、将来の稼働可能な期間全体について長期的にみてどれだけの収入を得る蓋然性があるかという観点から考慮し、推認すべきものであり、亡行良のように就労して間もない若年労働者については、逸失利益算定の基礎となる収入を事故当時の現実収入額に固定することは合理的ではないから(東京地裁昭和五七年一二月一三日判決・交通民集一五巻六号一六四四頁参照)、被告の主張は理由がない。

そして、亡行良が高校卒業後現実に就労し、その就労先が従業員一一二名と小規模ながら資本金四億七六〇〇万円、平成元年三月期で金二億五〇〇〇万円以上の利益をあげている証券会社であり、社員に支給する賞与等も順調に推移してきた事実(甲九の一ないし三、乙一)を併せ考慮すると、本件の場合には、新高卒程度の学歴の男子労働者の平均賃金を基礎として逸失利益を算定するのが相当である。

そこで、亡行良が本件事故がなければ稼働可能であつたと推認される一九歳から六七歳までの間について、新高卒の男子労働者の平均賃金(平成元年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計の金四五五万二三〇〇円を基礎とし、生活費として五割を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、次のとおり金四一一四万六一九一円(円未満切捨)となる。

四五五万二三〇〇円×〇・五×一八・〇七七一=四一一四万六一九一円

ところで、原告らは、亡行良の逸失利益を金一億〇八二四万六二七五円と主張するが、これに添う収入予定算出書(甲一〇の一)は、原告松村龍雄が作成した表に光証券の方で数字を記入して同原告に送付してきたもので(原告松村龍雄本人)、これを裏付ける客観的資料はなんら提出されていないし、証券会社の業績が証券市況の変動に強く左右されるものであり、将来の先行きが不透明であることは公知の事実であるから、右原告らの主張は採用することができない。

2  慰謝料 金一六〇〇万円

以上認定の諸般の事情を斟酌すると、金一六〇〇万円が相当である。

3  原告らの相続

亡行良は、右損害賠償請求権(合計金五七一四万六一九一円)を有するところ、原告両名は、亡行良の死亡により、同人から右損害賠償請求権をそれぞれ法定相続分にしたがつて二分の一ずつ相続した(それぞれ金二八五七万三〇九五円)。

二  原告らの損害〔請求額金二七八万五六六五円〕

1  入院雑費 金一万四三〇〇円

亡行良は、一一日間入院したが、入院雑費は一日当たり金一三〇〇円と認めるのが相当であるから、一一日間に右金員となる。

2  入院付添費 金三万三〇〇〇円

亡行良は、一一日間入院したが、原告らの入院付添費は一日当たり金三〇〇〇円と認めるのが相当であるから、一一日間で右金員となる。

3  交通費 金四万三七七〇円

証拠(甲五、原告松村龍雄本人)によれば、原告らは、亡行良の入院期間中、自宅から神戸市立中央市民病院に通うため右交通費を支出したことが認められる。

4  葬儀費用 金九二万九〇〇〇円

証拠(甲六の一ないし三、甲七の一、二、原告松村龍雄本人)によれば、原告らは、亡行良の葬儀費用として金九二万九〇〇〇円を支出したことが認められる。

5  墓石建立費用 〇円

原告らが、本件事故後亡行良の墓を金一七〇万円の費用をかけて建立したことを窺わせる証拠(原告松村龍雄本人)があるが、右建立費用を認め得る客観的な証拠はないし、右証拠によれば、原告ら方には従来墓石があり、今回宗教上の理由から新たに墓石を建立したものであることが認められるから、かかる墓石建立費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができない。

6  原告らは、右1ないし4の損害賠償請求権(合計金一〇二万〇〇七〇円)を有するところ、原告らは右費用を平等に負担したものと認められるから、右損害賠償請求権をそれぞれ二分の一ずつ取得した(それぞれ金五一万〇〇三五円)。

三  好意同乗による減額

1  証拠(乙一の九、一一、一八ないし二一、証人谷澤紀幸、被告川本悟本人)によれば、(1)被告悟は、本件事故当日の夕方、購入後間もない加害車を運転し、これに高校時代の友人である二神和男を同乗させて、友人の谷澤紀幸宅を訪れ、同人宅において三人で遊んでいたところ、亡行良から谷澤宅に電話があり、被告悟が加害車で来ていることを知つた亡行良が、電話で被告悟に対し、亡行良を加害車に同乗させてドライブに連れていくよう求めたこと、(2)これに対し、被告悟は、運転に自信がなかつたことから、亡行良に対し、同人の車でドライブするよう申し向けて、これを断つたが、亡行良の執拗な要求に断りきれず、結局、同人の右要求に応ずることとなつたこと、(3)その後、亡行良は、自己の乗用車を運転して前記谷澤宅を訪れたので、被告悟がドライブの行き先の希望を尋ねたところ、亡行良と二神の両名は、「六甲山に行きたい。」と述べたこと、(4)ところが、被告悟としては、自動車を運転して六甲山に登つた経験がなかつたのでこれを嫌い、亡行良の車両で行くよう提案したが、他の三名が「被告悟の車で六甲山に登りたい。」と述べ、「もし事故を起こしても知らないぞ。」との被告悟の言葉に対しても、「大丈夫、大丈夫。」と言つて、取り合わなかつたため、被告悟は、やむなく右三名を加害車に同乗させて、六甲山にドライブに出掛け、その途中で本件事故を起こしたこと、以上の事実が認められる。

原告松本啓子は、「亡行良が、被告悟から電話で呼び出されて、谷澤宅へ出掛けて言つた」旨を供述するが、信用できない。

2  右認定事実によれば、本件事故の発生は、亡行良が、被告悟に対し執拗に加害車への同乗を求め、被告悟が、亡行良らによつて断り切れない情況に追い込まれ、心ならずも六甲山ヘドライブに出掛けた途中で生じた事故であることを斟酌し、原告らに帰属の損害につき三五パーセントの減額をするのが相当である。そうすると、原告らの損害は、それぞれ金一八九〇万四〇三四円(円未満切捨)となる。

四  損害のてん補 金二五〇五万三二〇〇円

原告らは、損害のてん補として受領した右金員を、法定相続分の割合で原告らの前記損害に充当したことが認められるので、これを控除すると、被告ら各自が原告らに対して賠償すべき損害額は、各金六三七万七四三四円となる。

五  弁護士費用〔請求額各金一二五万円〕

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、各金六〇万円と認めるのが相当である。

(裁判官 三浦潤)

A 19歳~60歳=28,626,089

B 19歳×10+(20~60歳)×12=343,264,828

C A×12.8(ボーナス夏6.4 冬6.4)=366,412,939

D B+C=709,678,767

E 60歳~67歳=26,395,900

(訴状5項(9)(10)のとおり)

F B+C+E=736,074,667

G F÷2=368,037,334

ホフマン式

別紙 略

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